これは、真面目だった一人の若者が、パチスロという名の蟻地獄に足を踏み入れていく物語です。
浪人生の若者、真面目すぎる毎日
物語の主人公は、絵に描いたような真面目な浪人生。毎日朝早く起きては、夜遅くまで寮と予備校を行き来する生活を送っていました。彼は、自分と同じように周りの人もみんな真剣に勉強していると信じて疑いませんでした。
そんな若者の前に、一人の男が現れます。彼の名は**「S」**。
Sは食堂にあまり顔を出さず、若者はてっきり「食事を削ってまで勉強に打ち込む猛者だ」と思い込んでいました。しかも、目指している大学は早稲田や慶応という名門。若者は何の疑いもなく、Sを自分の部屋に招き入れました。
しかし、Sはいつも服がタバコ臭く、浪人生なのにやけに羽振りが良いのです。
「どうしてそんなにお金を持っているの?」と若者が聞くと、Sは少し戸惑いながら**「パチスロで儲けてるんだよ」**と答えました。若者は、パチスロで稼いでいることよりも、親に高いお金を払って寮に入れてもらっているのに勉強をしていない人がいるという事実に衝撃を受けました。
Sが食堂に来なかったのは、勉強していたからではなく、パチスロ屋から帰って来れなかったからだったのです。若者は、Sと関わると自分も勉強しなくなってしまうと分かっていながらも、なかなか関係を断ち切ることができませんでした。
「ギブ&テイク」のワナ
ある日、予備校の帰り道でSに食事に誘われた若者。親からの仕送りは決して多くなかったので、何度も断りましたが、Sは**「俺が奢るから」**と強引に誘ってきます。
結局、たまにSと食事をするようになった若者ですが、ある日Sからこんな言葉を投げかけられます。
「君はギブ&テイクができないね」
お金を持っていない若者は憤りを感じましたが、一方でSにばかり奢ってもらっているのも事実。そんな若者に、Sはさらにこう言いました。「パチスロで増やせばいいんだよ」。
若者は「それだけはしない」と強く拒否しました。するとSは**「世の中、ギブ&テイクが基本だよ」**と言い捨て、しばらく若者に近寄らなくなりました。
「人生の解放感」とパチスロ
その後、若者はSとの関わりが減ったことで、さらに勉強に集中できるようになり、見事第一志望の大学に合格しました。
合格後、若者は今までSに奢ってもらったお礼をするために、日雇いのバイトを始めます。稼いだお金でSに食事を奢り、これで借りは返せたとホッとしたのも束の間、寮を出る直前にSに呼び止められます。
「最後に1回だけ、パチスロに行こう」
大学に合格し、解放感に浸っていた若者は、軽い気持ちで「わかった」と返事をしてしまいました。
パチスロに行くための軍資金を稼ぐため、若者はさらにバイトに励みました。2万円を握りしめ、Sとその友達Tの3人でパチスロ店へ。
生まれて初めて打つパチスロ。言われるがままに台に座り、ひたすらメダルを入れ続けました。そして、結果は3人とも1万5千円ほどの負け。若者は半日でバイト2日分のお金が消えたことに、正気ではないと感じましたが、すでに気力は残っていませんでした。
地獄への入り口
この日を境に、若者はパチスロを打つことはありませんでした。しかし、負けず嫌いな性格が災いし、「いつか勝ってやる」という思いが心の中に芽生えます。これが、若者がパチスロという名の蟻地獄に足を踏み入れるきっかけとなりました。
この物語は、パチスロを始めた若者がその後転落していくきっかけを描いたものです。
この話だけを見ると、Sが悪者のように見えますが、それを受け入れた若者にも問題はあったでしょう。**「酒は飲んでも飲まれるな」**という言葉がありますが、パチスロは酒とは比べ物にならないほど人を酔わせます。
「自己責任だ」と言う人もいるかもしれません。しかし、依存とは、嫌がっている人に無理やり薬物を注射して中毒にさせてしまうようなものです。パチスロにも、抗いがたいほどの依存性があるのです。
パチスロは娯楽ですが、安易に手を出してしまうと取り返しのつかないことになるかもしれません。もし、強い意志がないのに「行こう」と誘ってくる友人がいたら、強い心で断りましょう。
ちなみに、Sはパチスロで稼ぐどころか、ただの依存症でした。たまたま勝った時は羽振りが良いですが、負けたら「ギブ&テイク」を連発する人間だったのです。彼もまたパチスロの被害者であり、その被害者が、気づかぬうちに加害者になってしまうのも、パチスロの特徴の一つかもしれません。


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